難破船の甲板でオレは寝言を言う

一回目の人生は強制終了させました。もう40代後半にも入ろうとしてるのに。

○月7日。

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会社の仕組みと登場人物




「さっきの、あれどういうこと?全然わからない!」


隣の席の清里さん(♀)が休憩時間、声を荒げた。研修四日目のことだった。

 

 


三日目までは全体的に割と順調だった。講師は現場のチーフマネージャー、杉本さん。ちょっと癖はあるが基本教え方も親切だし、研修慣れもしている人。内容的にも未経験者にわかりやすいよう、少しずつ少しずつ進めていく、わからないことがあれば随時質問を受け付け、丁重に答えていく。なんの問題もない。

 

 

・・・はずなのだが、清里さんはこう言うのだ。


「わからないのは講師が悪い!誰にでもわかるように教えなければ研修の意味がない!」

 

 


言ってることは間違ってるとも言い切れないが、そもそも講師は常識的な範囲で親切だし、わからないこと詰まりそうなところは質問するように何度も言ってるし(清里さんはその場で質問もしない)、内容的に特別下地が必要だったり理解が難しいものでもない。

 

要は「私がわからないのは講師の杉本さんが悪い!」と言ってるわけだ。

 

これってどうなんだろう。私は思った。これって世間で言われてるところのいわゆる「老害」の考え方なのではないだろうか。自分がわからないものは内容もわからないうちに否定に走る。自分が常に正しい。他人をとかく責める、怒る。

 

 

・・・と、唖然としていた私の目の前に座っている、同じスーパーバイザー候補の藤島さん(♂)が今度はすごい目で清里さんを睨んでいる。


休憩所でそのわけを藤島さんに訊くと、「只野さん、清里さんどう思いますか?あれ、老害ですよね?そもそもこの研修ってお金もらって受けてるわけじゃないですか。それを理解する努力を自分で何もしないうちにわからないからといって講師を責めます?考え方が甘い、お客さんじゃないんだっつーの。」

 

 

藤島さんの言ってることは社会人として正しい。そうだよな、給料出てるんだもんな。ただ全員が試験に合格するわけでもない、理解できなければ置いていかれるだけで連帯責任なわけでもないし、藤島さんもそんなに目くじら立てて怒ることでもないと思うけどね。

 

あぁ、いろいろ世の中の一端がここでも垣間見えるな。。私はそう思った。

 

 

 

まあ、いい。人を責めてもしょうがない。顔を赤くして怒る清里さんの隣にいた私は、休憩時間を使い清里さんにもわかるよう噛み砕いて説明してフォローに走ることにした。怒りっぽくない私は、適任だったかもしれない。


一方で講師の杉本さんには、清里さんがこういう感じになってる模様だ、フォローは自分がします、理解できるようサポートしますんで任せてください、と伝えておいた。どちらかというと性格的に気難しいであろう、杉本さんの顔がほころんだ。


これは実際自分がのちにスーパーバイザーになる、そのための訓練の一環に充分なるし、チーフマネージャーである杉本さんへのアピールでもあった。杉本さんに恩を売っておいたというわけだ。

 

 

私の社内の政治活動はすでに始まっている。

 

 

私は組織で労働をする際、政治活動(言葉は大げさだが)には手を抜かない。与えられた仕事はできるのが当たり前、働くのであれば自分がやりやすい環境を作るまでが仕事と思っている。

給与や待遇を考えないと言ったら嘘になるが、それよりも自分が日々の仕事を進められるように環境を作っておいた方が社内でのストレス防止になる。仕事は組織プレーだから。


できればその準備は最初の方でそれを仕掛けておいた方が負担が小さいし、のちにラクに進められる。今回の清里さん案件は絶好のチャンスだった。

 


ところが、問題児は清里さんだけではなかった。何人もいたのだ。

 


つづく。